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「だから、誰も私にはなれない」image:欅坂46/サイレントマジョリティ


2017年、メルマ旬報「木爾チレンの3㌢浮いた世界で、」のコーナーにて、
(個人的に好きな)楽曲に基づいてイメージした掌編を連載した作品です。



少女たちが精悍な顔で歌い踊る「サイレントマジョリティ
近頃のアイドルソングのなかでは、№1ではないかと思う。(私のなかでは)
衣装も可愛いし、メロディーは何度聴いても飽きないし、歌詞は攻撃的で、
私はふつうの女の子じゃない、好きなようにやるから誰も指示しないで
という十代ならではの無敵さが表れていてとても好きだ。
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※ノベライズではありません。
※曲を聴いて、勝手なイメージで書いているだけなので、欅坂46とは一切関係ありません。



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 illustration:倉田茉美




『だから、誰も私にはなれない』
(image:サイレントマジョリティ)




「玲衣名ってさ、アイドルやってんの?」
「そうそう、なんか放課後、劇場で踊ってるらしいよ。今度CDでるんだって」
「へー。いつも一人だけ涼しい顔で、自分は私たちとは違いますって顔して、ヲタクと握手してんだ、キモー」
「つーか、あいつのファンなんているの?」
「さあ、どうせ人気なんて、でないでしょ。アイドルなんて星の数ほどいるし、玲衣名よりかわいい子だって、たくさんいるでしょ。ほら、隣のクラスの有美子とかさ」
「だよねー」
「つーか、アイドルとか、ダッサ」
 さっき、といっても二時間前くらいのこと。お昼休みが終わる頃の女子トイレで、同じような明るい茶色に髪を染めたクラスメイトたちが、口々にそう話しているのを聞いた。別に、傷ついたりはしない。気にしたりもしない。ただ、そう思われていることを知っただけだ。
 でも、なぜだか、午後からの授業を受ける気にはなれなかった。
 仕事が入ったと嘘をつき、学校をエスケープして電車に乗り、なんとなく渋谷で降りた。どこへ行きたいかなんて決まっていないし、そんなのどうでもいい。ただ一人になりたかったし、一人になりたくなかった。
 終わらないざわめきのなか、私はiPhoneに繋いだイヤホンから流れる曲を口ずさみながら、スクランブル交差点で、信号が変わるのを待っている。この曲は、昨日発売されたばかりの、新しく結成された40人からなるアイドルグループの女の子たちにとってのデビュー曲だ。
 見上げれば、巨大な広告看板には、精悍な衣装で着飾ったそのアイドルグループが映っている。そしてその中央には、私が立っている。看板のなかの私は、凛とした顔つきで真っ直ぐに何かを見据えている。きっとまだ見たことのない、素晴らしい何かを夢見ている。嗚呼、そうか。私はきっと無意識に、この看板を見にここへ来たのだ。アイドルとしての私がこの世界に存在していることを、確かめるために。
(……ばかばか、しい)
 気がつけば、いつの間にか信号が変わっていた。まるで操作された機械のように、大勢の人たちが一斉に歩き出す。誰も私のことなんて、見向きもしない。認識もしない。あの看板の中央にいるのが私だなんて、気がつく人はいない。SNSに写真をあげれば、何千ものRTがされるのに、現実世界の私は、まるで存在すらしていない残像のようだ。

 ――アイドルとか、ダッサ。

 大音量の音楽で耳を塞いでいるのに、下らないクラスメイトの声がふいに蘇る。
「ダサいのは、どっちだよ」
 私は立ち止まり、つぎつぎと追い越していく人々の背中を睨みつけて、吐き出すように呟いた。けれどこんな雑踏のなかでは、雑音にもならずに消えていく。けれど、それでいい。私は確かにここに立っている。大勢の人が行き交うスクランブル交差点の中央で、下らないクラスメイトと同じ藍色の制服のスカートを靡かせて、私は誰とも違うと、叫んでいる。




By chiren kina







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by 1000ve | 2018-02-02 02:32 | 掌編 | Trackback | Comments(0)

小説家の木爾チレン(chiren kina)です。このブログでは、電車のなかや、カフェ、学校の休み時間にゆるく読んでいただけるような「掌編」を中心に、お仕事のお知らせ、日々の戯言など、ふんわりと掲載していけたらと思っています。


by 木爾チレン / chirenkina