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「先生と、ぴんくの世界」image:相対性理論/地獄先生



2017年、メルマ旬報「木爾チレンの3㌢浮いた世界で、」のコーナーにて、
(個人的に好きな)楽曲に基づいてイメージした掌編を連載した作品です。



相対性理論」にハマったのは大学生の頃だった。
地下鉄烏丸線に乗りながら、死ぬほど聞いていた。
やくしまるえつこ氏の特徴的な歌声も大好きになった切欠だが、SFチックな歌詞が最高で、この世界線に住みたいと思っていたほどだった。

なかでもこの「地獄先生」という曲は、私の心を擽った。

なぜなら私は「先生フェチ」で、
ときめきメモリアルGS」というゲームにおいても、
いちばん最初に先生キャラを攻略しなければ気が済まないほどだったから。
嗚呼、「先生」っていい響き。

※以下、ノベライズではありません。
※楽曲を聴いて、イメージして小説書いているだけなので、相対性理論とは全く関係ありません。



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illustration:倉田茉美



先生と、ぴんくの世界
(image:地獄先生/相対性理論)





 先生、私はふとした瞬間、言葉や人に色がついて見えることがあります。
 そう、先生は……ぴんく。くっきりと、鮮やかなぴんく色なのです。真新しい制服に身を包んだ高校の入学式の日、先生というその存在を目にした瞬間から、私の眼に映る先生は眩しいほどのぴんくでした。あれほどまでに目の前の世界がぴんく色に染まったことなどなかったのです。
 二年生になったばかりの日、すべての行事が終わったあと、私は先生に話しかけました。一日に一度、先生に話しかけること――何でもいい、おはようございます、でも、さようなら、でも――それが密かに心に決めた私の日課でした。
「先生は、言葉が色に見えることはありますか」
 この気持ちを悟られまいと平然とした顔をして見せても、先生に話しかけるときは、いつだって緊張のあまり、まるで金縛りにあったかのように体がひどく硬直して、心臓が張り裂けそうなほどにどきどきしていました。
「そのようなことはありませんね」
 私が話しかけると、先生はいつも少し苦笑います。先生からすれば、きっとまた、人間としてあまりにも不完全な女子高生が、わけのわからないことを言っていると思ったのでしょう。
「じゃあ感じてみてください」
 少し語気を強めて私は高飛車に言いました。私は先生に話しかけるだけでこんなにも緊張していることを知られるのが、死んでしまいそうなほどに恥ずかしかったのです。
「どのように?」
 先生は首を傾げました。切れ長の眼が、ひくひくと引き攣る私の寝不足の眼を捉えます。
 この高揚を落ち着かせようと、私は小さく呼吸をしました。
「私の名前を――心のなかで読んでみてください。……何色に見えますか」
 訊ねながら、何かを、期待していたのかもしれません。けれど自分でも何を期待しているのか、わかりません。ただわかるのは、先生がこの世界のなによりも、ぴんく色をしているということ、ただそれだけです。
「そう……ですね、……柊みつ子さんは……桜色、でしょうか。春を覆いつくす、桜色のイメージです」
 先生はそのときそう言って、私に向かい、はじめて小さく微笑みました。

 ――桜色……。

 嗚呼、それはきっと期待以上の返答でした。私は鏡に映る自分という存在を、黒色だと感じていました。宇宙の果てに潜む闇のような、漆黒だと。
 けれど先生は適当に、あの日、教室の窓から見えた散りかけの葉桜を目にして、つい口走っただけかもしれません。でも、それでも、私の心を弾ませるのは十分でした。先生は私のことを、馬鹿な女子校生としてしか、見てはいなかったでしょう。そんなこと、知っています。先生には、生涯をかけて愛する存在があったから。でも、そんなことも、どうでもいいのです。四六時中、先生、先生、先生――私の心を埋め尽くす言葉は、それだけでした。先生が現れた瞬間から、私の世界はぴんくになったのです。


 ねえ先生――。
 あのとき、私の色を思い浮かべたとき、先生は私のことを、心のなかでなんと呼んだのでしょうか。やはりいつものように、柊みつ子さん、とフルネームで呼んだのでしょうか。それとも名前を、思い浮かべてくれたのでしょうか。
 卒業式までに、一度くらい、名前で呼んでほしかった。みつ子――と。
 くだらない卒業式が終わり、今、満開の桜の下で私は先生を感じています。
 先生はもう透明です。三カ月前、突然、この世界から消えてしまいました。けれど私は感じます。こうして眼を閉じれば、先生を象徴する鮮やかなぴんく色が、桜が次々と開花するように目蓋に広がります。それはまるで昨日のことのように、私に向かって微笑んだ先生が、目蓋に浮かんでくるのです。




By chiren kina 2017 03 30


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by 1000ve | 2018-02-02 16:40 | 掌編 | Trackback | Comments(0)

小説家の木爾チレン(chiren kina)です。このブログでは、電車のなかや、カフェ、学校の休み時間にゆるく読んでいただけるような「掌編」を中心に、お仕事のお知らせ、どこにも発表するあてのない小説、日々の戯言など、ふんわりと掲載していけたらと思っています。


by 木爾チレン / chirenkina