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『乙女で痛いよ』第5話「My audition」

今回は特別編です。


2018年、メルマ旬報「木爾チレンの3㌢浮いた世界で、」のコーナーにて、連載中の「連作掌編」です。
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それぞれ、「乙女の痛さ」をテーマにした、連作掌編になっています。
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挿絵は、Amazonプライムの番組、バチェラーシーズン2に参加している、わたしの妹、「倉田茉美」が描いてくれています。
あわせてお楽しみいただければさいわいです。


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illustrator:倉田茉美


*この作品は、「倉田茉美」が主人公になっておりますが、現実を織り交ぜたフィクションです。
*映画「ララランド」のネタバレ、あらすじがあります。
*挿入歌:「audition」エマ・ストーン
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第5話「My audition」

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She told me:
“A bit of madness is key
To give us new colors to see
Who knows where it will lead us?
And that’s why they need us”


 ――叔母は、教えてくれた。
「少しの狂気が、世界に新しい色を齎してくれる鍵なの。私たちがどこへ向かっているかなんて、誰にもわからないでしょう?」
 だから世界には、夢追い人が必要なの――と。



 その日私は、映画館でひとり、「LA・LA・LAND」を見ていた。
 映画が好きだ。映画はいつも、私に色々なことを教えてくれる。
 けれどその映画は――、特別だった。
 オープニングがはじまった瞬間から、心が震えて、気がつけば映画のなかに吸い込まれていた。
 簡単な映画の粗筋は、こうだ。

 エマ・ストーン演じる「ミア」は、敬愛する叔母の影響で、女優を目指している。けれど演技はまだ独りよがりで、オーディションを受けても、真剣に向き合ってももらえず、不合格ばかり。努力しても、誰にも認めてもらえない。結局もう何年も、ハリウッドのコーヒーショップでアルバイトをしている。
 そんなある日、レストランから聴こえてきた美しいピアノの演奏に引き寄せられるように、ライアン・ゴズリング演じる「セブ」に出会った。
 何者でもなかったふたりは、顔を合わせるたび、恋に落ちていく。
 セブは少し頑固だが、優しい男で、古き良きjazzを愛していた。
 けれど、ミアの為に――言い換えればふたりで生きていくお金を稼ぐために、自分が愛するjazzではない、現代風にアレンジされたjazzを演奏するバンドに、新メンバーとして加入することを決めた。
 バンドはどんどんと人気を博し、セブは持ち前の才能を、開花させていく。
 だがミアは、女優としてなかなか芽がでることがなく、スタートにも立てないでいる。ひとり、何者にもなれないまま、ふたりで借りた部屋に取り残されていく。
 けれどあるときミアは、一意奮闘して、独り芝居を計画する。脚本を書き、舞台を借りた。
 胸が高鳴る日々。ここから何かが、はじまるかもしれない。だがいざ、開演してみると、観客席はがらがら。終演後も、拍手はまばらで、「最低の劇、才能ない」そう呟く声が聞こえた。
 ミアは激しくショックを受け、慰めるセブを払いのけ、実家へと帰ってしまう。自分を信じて、夢を追いかけてきた。けれどもうこれ以上、がんばれない――そう感じた。
 それから数日後のことだった。
 ミアの一人舞台を見てくれていた監督から、こう連絡がくる。
「映画のオーディションを受けてみないか」
 それは、ミアの才能を認めていることに他ならなかった。でもミアは、こわかった。
 また批判されたら――……もう、女優を志すことはできなくなる。夢が完全に閉ざされてしまう。それが、こわかった。しかしセブは、ミアを――ミアの才能を信じていた。セブはなかば強引に、ミアをオーディションへと連れ出す。
 辿り着いた場所は、いつもとは違う、ミアの為に用意されたオーディション会場。
「何でもいい。あなたのことを、話して」
 オーディションが始まり、監督は言う。
 それからミアは語るように、歌いはじめる。

 My aunt used to live in Paris (私の叔母はパリに住んでいたことがあって)
I remember, she used to come home and tell us (よく、私達にその頃の話を聞かせてくれました)
stories about being abroad and.
I remember that she told us she jumped in the river once, barefoot(思い出します。裸足で、セーヌ川に飛び込んだときの話……)

She smiled…(いつも笑いながら、話してくれた)


 歌は続く――私は、声を震わせて歌うミアを見つめながら、いつの間にか、泣いていた。
 あまりにも素晴らしい物語に、感動していた。でも、それだけじゃない。
 私は、「ミア」に共鳴していた。



 一年前、すべてに嫌気が差して会社を辞めた。二十五歳が終わろうとしていた。業務が退屈なわけでも、お給料に不満があるわけでもなかった。でもずっと、ここは私が思い描いていた場所ではないと感じていた。

 思い返せば、小さい頃から私は、何者かになりたかった。
 それが何なのか、不確かで、よくわからない。
 でも、私にしかなれない私に――なりたかったのだと思う。

 それが会社を辞めた理由だった。
 くだらない理由――そう思われていた。「あんないい会社、辞めて」そう、影口を叩いている人もいた。二十歳のときに新卒で入った会社だ。私だって、そう思わないわけはなかった。
 でも私は、何かを失うことで、何かが始まると信じていた。それが何なのかわからない。けれど――この世界には、まだ知らない私の為の運命が、あるはずだった。
 私はそれを、探していた。



 会社を辞めてから一年間、私はこれまで勤めていた会社とは違う、様々な業種に足を踏み入れ、これまでとは違う日々を送った。でも、どれもこれも、思い描いていた場所ではなく、私の為の運命は、そこにはなかった。
 私は、どこへ向かっているのだろう?
 少し、立ち止まってみるべきなのかもしれない……。
 そう思って私は、少しのあいだアルバイトで生計を立てながら、毎日本屋へ通っては、素敵な本を買って読み、映画を観た。大好きな絵も、たくさん描いた。こんなふうに、素晴らしい作品に触れながら絵を描いて生きていけたら、どんなにいいだろう。そう思わずにはいられない。
 私はいままで淡々と、とても真面目に、毎日をこなしてきた。遅刻も早退も、ずる休みもしたことがない。だけど、何をしていても、どれだけ頑張っても、目の前は灰色だった。
 恋も、いつだって、うまくいかない。運命の人に、出会える気配もない。
このまま、歳を取っていくの――?
 私は、こわかった。
 一度きりでいい、自分にとって、特別な恋がしたかった。
 特別な、何かに、なってみたかった。
 だって、わたしは誰ともちがう。いつもそう、心のどこかでそう思っていた。
 でもいまは、プライドが高いだけの、かっこうわるくて、情けない自分でしかない。何者にもなれないまま、つまらない世界を彷徨っている。
 でも、痛い部分も、そのすべてをさらけ出しながら、夢に溢れた未来へと向かうミアの姿を見て、ようやくわかった。
 世界をつまらなくしているのは、自分だった。
 私は、きらきらした世界は、どこかにあるものだと思っていた。誰かが用意してくれるものだと、思っていたのかもしれない。
 でも違った。私が思い描く世界は、自分で作るものだ。
 私は映画館でミアと出会ったとき、自分に出会ったような気持ちになった。それは、私はミアと似ていると思ったから。そしてミアが、私が探していた自分だったから――。
 愛と夢――、いつだってわたしが探していたものは、その二つだった。
 小さい頃から、思い描いていた。
 夢が詰まった場所。
 そして、心から、愛してくれる人を。



 そんなとき、姉が言った。
「bachelor japanのオーディション、応募してみない? 茉美にぴったりな番組だと思う」
 そのとき私は二十六歳だった。なにかを目指すには、遅すぎるかもしれない。
 だけど一度でいい、――きらきらした世界を、この目で見る為に頑張りたい――そう思った。
 私は「受けてみたい」そう返事をしたあと、どきどきしながら番組をいっきに見た。
 舞台は、現実とはかけ離れたなゴージャスな空間。そこで、ひとりの完璧な独身男性「バチェラー」と結ばれるために、複数の美しい女性が、それぞれの魅力を出し合って競い合う。バチェラーは、気に入った女性にローズを渡す。ローズを渡されなかった女性は、次の物語には進めず、その回で強制帰宅しなければならない。そして女性の人数が減るにつれて、物語は最終回へと進んでいき、最後のローズを渡された人だけが「バチェラー」と生涯結ばれる権利を得られる。
 見たこともない刺激的なその番組を見終えて、私は異常なほどに胸が高鳴るのを感じていた。
 だって、「私の運命はそこにある」そう、感じたから。



 それからぶじに書類審査が通り、はじめてのオーディションの日。
 京都から指定されたオーディション会場へ向かいながら、私は震えていた。いつもは緊張なんてしない。度胸はあるほうだ。でも、絶対に失敗したくないという思いが、私の身体を震えさせていた。
 私は、誰とも違う。絶対に、くだらない女の子なんかには、負けない。
 そう呪文のように唱えてみるけれど、電車でオーディション会場に向かう途中の私はまだ、何者でもない。ただの、その辺にいる二十六歳の一般人でしかない。
 でも、ミアだってそうだった。どんなに輝かしい人も、はじめは何者でもなかった。
「大丈夫――」
 私はつぶやいて、大きく深呼吸をした。
 夢を見るために、まだ出会ったこともない、けれど運命のあなたに会うために、私は絶対に――あの、きらきらした場所に立ってみせる。
 ほんのすこしの、狂気とともに。



 それから数か月に渡る厳しいオーディションに、私は人生をかけて挑んだ。
 どこから湧いてくるのかわからないけれど、自信はあった。けれど時々、不安に押しつぶされそうになると、私はiPhoneにダウンロードした、あの素晴らしいミアの歌を再生して、何度も聴いた。
 私に勇気をくれる、歌。私に、生きることのすべてを教えてくれた、映画。
 オーディションへ参加している女の子は、みんな美しい。自分を特別に感じていて、自信に満ち溢れているから。
 でも私だって、世界にひとりしかいない特別な女の子だ。
 地味な人生にも、誇りを持って生きてきた。
 こんなところで、負けたりしない。
 ミアのように――どんなに恰好悪くても、オーディションでは、自分を出し切ることを心掛けた。
 他人を蹴落とすのではない。
 自分を信じること――それだけを、心のなかで思っていた。



 そして私は――

「倉田茉美さん。Bachelor japan シーズン2に参加が決まりました」

 最初のローズを掴み取った。



 張り裂けそうなくらい、心臓が高鳴っている。
 今日から、いよいよ撮影がはじまる。
 生まれてはじめて、それはまるでシンデレラのように、きらびやかな青のドレスで着飾った私を乗せた白いリムジンが、あなたのもとへ到着する。
 降り立つと、目の前は、現実ではないようにきらきらと輝いている。
 それは、ずっと思い描いていた場所。
 その、まるで夢のなかのような景色のなかに、私は一歩踏み出す。
 会いたかったあなたが、そこには立っている。あなたは私を見て、微笑んでいる。あなたとはまだ、話したこともない。あなたはまだ、私の名前も知らない。私という存在も。
 けれど、あなたと会う前から、私は確信していた。
 映画の終盤、走馬燈のなかで、セブとミアが抱き合ったように、私は、あなたと出会ったこの瞬間、あなたを好きになると。
 あなたに声をかけるために、14センチのハイヒールで、赤絨毯を一歩ずつ踏みしめる。
 これから、どうなるのかわからない。すぐに、帰らなければならないかもしれない。
 でも、ねえ、見ていて――。
「林太郎さん、はじめまして!」


 私の運命は、これから、はじまる。



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Choose me



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今回は、特別編として「倉田茉美」を主人公に、掌編を書きました。
「バチェラージャパン」に出演するまでの、彼女の様子(フィクションを織り交ぜています)です。


「バチェラー」は、もともと私がハマっていて、金曜日の0時なると、どきどきしながらprimevideoに接続していました。
はじめ、CMを見たときは「なんやこれ……」と思っていたのですが、
一話目をみるやいなや、バチェラーや女の子が魅力的なのは勿論のこと、その独特の世界観や、映像美――地上波のテレビでは見たこともないきらびやかな舞台に、気がつけば番組のなかに引き込まれていました。
個人的には、もりもり(森田紗英ちゃん)を応援していたので、彼女が落ちてしまった最終話は、3時間くらい放心状態になるほど悲しみました。(感情移入しすぎ)


けれど番組のさいごに「シーズン2」の応募が告知されたとき、
直感で、絶対「茉美ならイケる」と思いました。
茉美が、赤絨毯の上を歩いている情景が、ぱっと目蓋に浮かびました。
(私のなかの茉美のイメージは、「かわいくて、毒舌で、でも、優しくて、いい子」
 きっと、あのきらきらした世界が似合うと思いました。
 これほどバチェラーガールズに適した存在はいない……!)
思えば茉美が二十歳の頃、ちょうどNMBの初期メンバーの募集があって「受けたら⁈」と10回くらい薦めたのですが、
茉美は現実思考なので「会社あるから」と断れたことを思い出します。

私は茉美の可愛さを世の中にひろめたかったのです。(シスコン)

それからlineで
番組の説明を送り、
「応募してみる?」
とすぐに茉美に連絡を取って、
「受けてみたい」と返事がきたので、
すぐにエントリーシートを送りました。

ぶじに書類審査が通り、
1回目のオーディションには、茉美があまりにも不安そうに「ついてきて」と言ったので、
会場の前まで私もついていったのですが、
普段はあまり緊張しない茉美が、すごく震えていたのを思い出します。

掌編は、
私生活の部分、オーディションの部分、
プライバシーの為、あまり細かく描けなかったので
雰囲気小説になってしまいましたが、
「次の審査に進みました」と連絡がくるたびに、
一喜一憂しながら、茉美を東京に送りだしていました。


そして
合格の電話は、なぜだか私にかかってきました。

「お姉さんから、茉美さんに伝えてあげてください」と。

私はすぐに電話をかけました。

それから
ふたりで喜び合ったあの瞬間を、死ぬまで忘れないでしょう。

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by chiren kina



by 1000ve | 2018-05-31 18:35 | 連作短編「乙女で痛いよ」

小説家の木爾チレン(chiren kina)です。このブログでは、電車のなかや、カフェ、学校の休み時間にゆるく読んでいただけるような「掌編」を中心に、お仕事のお知らせ、日々の戯言など、ふんわりと掲載していけたらと思っています。


by 木爾チレン / chirenkina