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やついツーリスト in スリランカ ③「Instagramとウミガメ」

やついツーリスト in スリランカ旅エッセイ


第三弾「インスタグラムとウミガメ」


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朝、100メートルプールの全容が見えると、いよいよスリランカの旅がはじまった感じがした。
スリランカに着いてからずっと、暗闇やバスのなかの風景しか見ていなかった所為だろう。
日本とは流れる空気が違う。
それにしても空気というものは、なぜこんなにも国ごとによって違うのだろう。
人間でいうなら、生まれ持った性質や、生きてきた環境が醸し出す体臭みたいなものだろうか。
人の家の匂いは、自分の家とは違って、子供の頃は、それがなんだか不思議だった。


朝食を済ませてから、さっそく泳ぐ。
普段、仕事柄(或いは性格上)引きこもっている私は、インスタにあげるようなお洒落な写真が、ほぼない。
愛猫のミシンの写真なら一億枚くらいあるけれど。
なので旅へでると、インスタ映えの写真を撮ろうと、わりと必死だ。


そのとき、何やら最近はやついツーリストの常連であるらしい、浅井カヨさんが、(おそらく毛糸で編まれた)モダンガールな水着でプールに降臨された。
旦那さんの晴彦さんも、なんだか名前からして出会うべくして出会い、結婚するべくして結婚したという、映画にでてくるような、紳士でお茶目な方だ。
私はこの夫婦を前に、世界の需要と供給はほんとうに天才的だなと思った。
神様が最初から二人を出会わせる為に作ったとしか思えないくらい、二人はお似合いだった。


そしてポリシーのある人は、何歳になっても格好いい。
私はマジでノンポリシーだ。文章を書くこと以外は、すぐに飽きては熱してを繰り返している。
私は自分のことをいい意味でサブカル女だと思うし、いい意味でミーハーだと思うし、いい意味でオタクだと思う。
アートも好きだし、純文学も好きだし、パズドラも好きだし、ヒカキンさんもはじめしゃちょーも好きだし、エレキコミックも好きだし、キャンプも好きだ。
せっかく生きてるのなら、流行りは楽しんだもの勝ちだと思う。
それに流行っているコンテンツというのは90パーセント面白い。天邪鬼になる必要なんてないのだ。

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話は戻り、インスタグラムに載せる写真だ。
同室の昭島さんは、快くシャッターを切ってくれるが、こんな美人なお姉さんばかりに頼むのも気がひける。
たかがインスタグラムではあるが、
撮ってもらえればそれでいいというわけではなく、
あまり不細工に映っている写真は恥ずかしいし、どうせなら構図もやはり映える感じがいい。

そんなとき、救世主のように現れたのが、のちに野犬くんと呼ばれる、常に笑顔を浮かべているあやしい青年だった。

私は野犬くんを見て悟った。


彼――野犬くんは、おそらく何でも私の言うことをきくだろう。


私にはそれが直感でわかってしまった。
別に特殊能力ではないけれど、本能的に「この人は私のことを(人間的に)全面的に好きになってくれる」人かというのは、一言交わせばわかる。
逆に、「この人は何を尽くしても私のことを永遠に好きにならないだろう」というのは、もう話さなくてもわかる。相性というのは、第一印象からほぼ変わらないのである。


まあ、野犬くんのことを、あまり自分で書くのもあれなので、詳しくはエレマガの2019お花見レポートを聴いてほしいが、とにかく彼は7日間、嬉々として私のインスタ用の写真を撮り続けてくれた。
「奴隷」というと言葉は悪いが、翌日には彼は、周囲からも「チレンちゃんの奴隷」と呼ばれていた。

そんなことをさせて……と批判が起こりそうだが、お互い楽しかったのでwinwinなのだ。
彼とは、この旅でいちばん仲良しになったような気がする。
男友達というのは、あっさりしていていい。
連絡をとらなくても無視しても命令しても(何かが違う)、女の子みたいに確執はおこらないから気楽でいい。


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(野犬くんの撮ってくれた写真をチェックする私の図)

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さて、野暮なことはさておき旅をはじめよう。
ホテルを後にし、まず、ゴール旧市街観光。
世界遺産である要塞を見に行く。
「要塞」ときいて、ゲーム脳の私は、マイクラのネザー要塞が思い浮かんだ。
そして到着した途端、そこがあまりにもマイクラの世界すぎて、驚いた。
マジで要塞だ!
そう叫びそうなくらい、感動した。
たぶんそういう感想を抱いていたのは私一人だけだっただろう。
あとは、沖縄の今帰仁城跡に似ていると思った。


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(やついさんと私)


それから昼食をとり、
ウミガメ放流体験へ。
余談だが、スリランカの食事はほぼビュッフェスタイルだった。
私は辛いカレーが苦手なので、早々に飽きて、ウインナーばかり食べていたような気がする。
何せウインナーは正義だ。
家、お弁当、キャンプ、外国……どこで食べても美味しい。
余談だが(二回目)、「ウインナーパーティー」という、ピクサー風の下ネタ映画があるのだが、私はこの映画がわりと好きだったので、妹に進めたら「最悪の映画」と感想が来た。
以前、「ムカデ人間」を見せたときも「なんでこんな最低の映画見せるん?」とキレられた。この反応が結構面白いので、最低な映画(私にとっては最高だが)を時々、進めてしまう姉である。



また話が逸れてしまった。
ウミガメ放流体験の施設に着くと、
人工池のなかには何百匹ものウミガメが泳いでいた。
とても小さい。1歳から2歳だそうだ。
ウミガメたちは、みんな池のなかで、海の方向を目掛けてバタバタと泳いでいた。

それは――本能だそうだ。

ウミガメたちは、海で産まれたわけではないのに、本能的に海に帰りたくて仕方がないのだという。
(本能が生まれつき備わっているものだと思うと、なんだか、すごい)
そう思った。


それから飼育員さんの指示のもと、
一人一匹ずつ池のなかから救い、海へと向かい、

砂浜へ着くと、みんなで一斉に、放った。

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ウミガメは、迷うことなく、本能の赴くままに海へと向かっていく。

なんだか、涙がでた。

もしかしたら私は、一つの命を葬ってしまったのかもしれない。

そんな気持ちになったからだ。

でも、何度波に浚われても、一生懸命に海に向かって進んでいくウミガメの後ろ姿は、希望に満ち溢れていた。


カメは万年生きると言う。


たった一日の命になるのか、
何万年も生きるのか、
あの子は、どうだろう。


きっと、生きて。

生きてね。

海に背を向けて、強くそう願った。



みんなが、
「すごいよかったねー」と口々に言いながらバスへ帰るなか、


(命の授業のような体験だった。)


私だけセンチメンタルな気分になっていた。
というか泣いていた。
もはや親の境地だった。
脳の片隅で、お祭りで救った金魚が死んだときも三日三晩泣いていたことを思い出していた。
ひどいようだが、映画なんかを見ていても、
私は、人間の死よりも、ちいさな生き物の死に、いたたまれなくなってしまう。
小さい頃、無意識に蟻を踏みつけてしまったときから、ずっとそうだ。
私はその蟻のことを、いまでもふっと思い出す。



どうにか気持ちを切り替えて、バスに揺られ、今夜のホテルへと移動。

一日目と同じく、ジェフリーバワ建築の、ジェットウィングライトハウスに宿泊。
こちらは、ジェフリーバワが後期に建てたホテルで、ジェットウィングラグーンに比べて、落ち着いて、洗練されているイメージだ。
そして滞在したなかで、ここがいちばん最高のホテルだった。
まるでアート作品のなかで、眠っているようだった。


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そして夜、海沿いの席で、海鮮ビュッフェを食べていると(スリランカは海鮮が美味しい)、
痩せた白い猫がすり寄ってきて、にゃあんと鳴いた。
ごはんが欲しいようだ。
猫と暮らしていると、猫の言葉はたいてい理解できるようになる。
私はビュッフェで、味のついていないマグロの切り身をたんまり持ってきて、ぜんぶあげた。

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生き物は、なんでこんなにも尊いのだろう。

生き物の尊さを考えていると、やっぱり時々、どうしようもなく涙がでる。
繰り返すようだが、映画で猫がどうにかなってしまうシーンなど、私はもう見られない。


ざぶん、ざぶん――


食事をとりながら、リアルな波の音が、鼓膜を何往復もする。
ここは、いつも生きている環境じゃない。
愛猫のミシンからも、家族からも、ずっと離れた遠くの地。
私は、遠い所に来たんだ。
それだけで、すごいことをしているような気になる。
非日常は、こわくて、たのしい。
経験は、物よりも素晴らしいと、30歳になってから思うようになった。
物はなくなってしまうけれど、経験は絶対になくならない。
それどころか、時が経つごとに、かけがえのないものになっていく。



私が放ったウミガメは、今頃、どうしているだろう。

ずっと帰りたかった海で、優雅に泳いでいるだろうか。

あのとき、ウミガメが海へと向かっていく素晴らしい動画が撮れたけれど、
私はなんだか、その様子を、インスタグラムにあげられなかった。



きっとウミガメは、いいねをもらうために、海へ帰ったんじゃないから。



④最終話「サイレントヒル」へ続く



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by 1000ve | 2019-12-27 01:19 | 旅の記憶(エッセイ)

小説家の木爾チレン(chiren kina)です。このブログでは、電車のなかや、カフェ、学校の休み時間にゆるく読んでいただけるような「掌編」を中心に、お仕事のお知らせ、日々の戯言など、ふんわりと掲載していけたらと思っています。


by 木爾チレン / chirenkina